兄妹備忘録

兄妹厨がひたすら兄妹にまつわる作品について書き留めるブログ

妹の体温

Netflixで視聴した2015年のノルウェー映画のあらすじと所感。

 

☆キス       ・・・有

☆肉体関係・・・有


 冒頭のシーンは、妹のシャルロッテのカウンセリングから始まる。彼女は冷めた家庭環境により寂しさを抱えていて、母親への複雑な愛憎で心を痛めていた。家庭を省みない母親と酒に溺れる父親、特に母には自分を放っておかれたという思いから「離れたい」「親しくしたい」という相反する感情を持て余している。
 場面は変わり、入院中で寝たきりの父親を見舞うシーン。先に来ていた母親はシャルロッテの顔を見るなり「評価はAよ」と笑顔で告げる。その後もつらつらと話す内容は父の病状に一切触れることはなく、そこから察するに母親が大学教員で論文を書いているらしいことがわかる。米文学史におけるフェミニズムについて熱心に語る母親は、一方的に話し終えると忙しそうに病室を後にする。シャルロッテは複雑な笑みを浮かべながらも、カウンセリングの態度とは打って変わって友好的な様子だった。しかし心中は複雑で、母が帰った後に激しく苦しみだした父を宥めながら悲しげな表情を見せる。
 そんな彼女にも家族同然の親友がいる。友人のマルテはメキシコ人の男性と結婚し、彼女はその場で友人代表のスピーチを務めた。家族の愛情に飢えていた彼女を家族に迎え入れてくれた親友に対し強く憧れており、「彼女を手本にして生きていく」という言葉で挨拶を締める。しかし親友に対する思いは単なる憧れではないと思う。嫉妬や羨望、それから新しい家族を作った友人への恨むような気持ちもあったのかもしれない。結婚式の会場で新郎の祖母から新婦であるマルテに贈られたネックレスは、祖父から祖母にプレゼントされたという経緯があり、いわば家族の温かい繋がりを表すようなものだ。友人夫婦のやり取りを目の前で見ていたシャルロッテは、彼らの目を盗んでそれを自分のバッグに隠してしまう。
 後日、講師として働くダンススクールで子供たちにレッスンをするシャルロッテ。そこに訪ねて来た長身の男性。実はこの人物は、結婚式の会場でマルテとその兄ダグ(シャルロッテのボーイフレンドでもある)と話した際に話題に上った異父兄ヘンリックだった。ヘンリックは彼女を冷たく突き放し、「うちを嗅ぎまわるのはやめろ」と吐き捨てて去って行く。シャルロッテは自分に兄がいることを知り、家の近くへ行っていたようだった。兄と入れ違いにやってきたマルテにどことなく慰められながらも、シャルロッテはずっと兄を気にしていた。
 それからシャルロッテは改めてヘンリックの元を訪ねる。兄の妻に出迎えられ、子供を寝かしつける兄に怪訝そうにされながらも部屋に通される彼女。そこで母から聞かされていた「初めの夫が家を出て行った」という話が嘘で、出て行ったのは母の方だったと知る。ショックを受ける妹を気遣った兄の妻が、これから職場に報告書を出しに行くという夫に同行することを提案し、二人はヘンリックの会社へ向かう。妻の前では「一杯飲もう」と言っていたヘンリックは報告書を出し終えると「実は他にも用事がある。飲みに行くのはまた今度にしよう」と素っ気ない態度。兄に嫌がられているのを悟りながらもここで終わりにしたくないと思ったのか、シャルロッテは用事が終わるまで待つと言う。
 シャルロッテを伴って用件先の労働省へ行き、道行で出会った人々と会合を楽しむ二人。そこで兄は「抜け出そう。三つ数えたら机に額を思い切りぶつけて」と耳打ちする。これは兄のちょっとした意趣返し、妹を試す気持ちがあったのかもしれない。酔ったふりでもさせて切り上げたかったのかな?と思ったけど、そんな優しいものではなかった…。兄の発言に戸惑いながらも次の瞬間、本当に実行したシャルロッテに周囲は一瞬沈黙する。「冗談でやったの」と取り繕うも、冷めきった空気はとても戻りそうにはなかった。狙い通り抜け出した二人は打ち解けた様子で笑いあう。酒を飲みながら互いの身の上を話し合い、このあたりから随分親しげになってきた。そのまま父の入院先にヘンリックを連れて行ったシャルロッテ、間違って地下に降りて運搬用と思しき機械?などに乗って遊ぶ兄妹。いい大人だというのになんとも無邪気な雰囲気。父の病室のシーンでは電気もつけず真っ暗闇の中の対面となるが、自分の父を捨てて出て行った母の選んだ相手を兄がどんな思いで見つめていたのか気になるところ。
 兄の家に戻った二人はキッチンで食事を摂りながら穏やかに語らう。改めて互いが兄と妹であることを認識しながら、「やあ妹」なんて気安く呼びかけて冗談めいたやり取りを楽しんでいる。シャルロッテが口につけた食べかすを手で拭うのを咎めて自然に拭いてあげるヘンリック、ここだけ見るとまるで普通の兄妹のよう。なんてかわいいシーン…!しかしそんな微笑ましさと同居しえない空気もたしかに存在する。静かに見つめ合うその視線には優しくも激しい熱が燻り、強く惹かれ合っているのを感じた。
 なんとも言えない空気はヘンリックの5歳の息子によって中断する。息子を寝かしつけるために離れるヘンリック、余韻を引きずるように顔を上げて遠くを見るシャルロッテ。どこか寂しそうな横顔は、ここでもまた家族という輪から外れた疎外感を覚えているように見えた。
 またダンススクールのシーン。教えている子供たちは10歳以下といった感じで、あどけなくてかわいい。シャルロッテの態度を見るに、子供の相手をするのは好きそうに見える。そして仕事を終えて家に帰りベッドで横になっている彼女のもとに、突然ヘンリックが訪ねてくる。何か思いつめた表情で、私は「ついにきたか?!」と唾をのんだ。案の定、ヘンリックは不意にシャルロッテに触れるだけのキスをした。すぐさま離れて、しばし見つめあう兄妹…。戸惑いながらも、こうなることがわかっていたかのような、もう抗えない凄まじい引力がここにある…。今度は妹の方からキスをして、それを契機に一気に燃え上がる二人。妹を壁に押し付けて前戯もそこそこに合体する兄ちゃん、思ったより激情型っぽい。立ったままで致す二人を映すカメラアングルは兄ちゃんの尻と開脚して受け入れる妹をばっちり見せてくるので、ワーオ…という感じ。激しい行為を終えた後の二人はどことなく気まずそうである。再会してどのくらい経っているかわからないが、少なくとも一週間以内という気がするので、展開としてはむっちゃ早いのは確か。しかし兄妹厨は知っている…血は水よりも濃いものであると…故に惹かれあうのは必然であると…。
 ついに関係を持ってしまった兄妹、の前に父のお見舞い。母親に兄を見まいに連れて来たことがバレ、叱責されるシャルロッテ。お母さんは旦那には前夫との間に子供がいたことを伝えてないっぽい?少なくともヘンリックに対し良い感情は持ってない模様。
 でも周りから歓迎されないからといって一度点いた火は消えません。その後二人はどこかのカフェで食事をしており、そこで妹は兄を指して「今日結婚したんですと」店員に嘘をつく。また何を思ったか友人マルテから盗んだネックレスを「マルテの物よ」と言ってお披露目。えっ!?と驚く視聴者を置き去りに、ネックレスを手に取って「君にプレゼントする。つけて」とノッてくる兄。血のつながった兄妹は人から借りて来たもの(家族の絆)と共に、仮初の幸せに浸るのです…。室内プールで泳ぎながら、19歳の時にシャルロッテと母を訪ねたことを告白するヘンリック。その時に「母は寝ているから後にして」と言われたと説明され、笑う妹。このとき、ヘンリックはこの家に生まれたかったと思ったという。それで、ずっと妹を憎んでいた。シャルロッテは自分を不幸だと感じていたけど、兄もまたずっと孤独を抱えていたわけです。いわば加害者は共通なわけで、家族の都合で同じように苦しんできた、そんな二人の間に強い仲間意識みたいなものが生じるのも無理はないと思う。
 で、病床の父がここで死亡。落ち込んだシャルロッテが向かうのはもちろん兄のところ。職場に行ってるみたいですがいいんでしょうか。いいんです、妹だもの。平気だと虚勢を張る妹を抱きしめて慰める兄、その後は彼女の部屋に行くわけだけど、映らないだけで多分ヤッている。そこに母と友人マルテが訪ねてきて、私は慌てる。母は兄が来ているから会うか?と尋ねたらさっさと引き上げてしまった。だがマルテにここで風呂場のドアの隙間から見える兄の姿に気づかれてしまう…。
 父の葬儀で卒のない挨拶をする母。シャルロッテのダンススクールの恩師らしい初老の女性がシャルロッテを褒めてダンスの発表会に来るよう勧めるが、母は気のない反応を返す。シャルロッテは耐えられなくなってトイレに逃げ、心配して追ってきたマルテに何故ヘンリックが風呂場にいたのかを問われて焦ってしまう。洗面台で襟元を緩めて振り返ったシャルロッテ、その胸元には盗んだネックレスが…。唖然とするマルテ、泣いて「返すつもりだった」と謝罪するシャルロッテ、それでもマルテは彼女をそっと抱きしめてる。「いいのよ。これは返してね」とネックレスを外して去って行かれ、勝手に拝借していた家族の絆は彼女の元を離れてしまうのです…。
 そこからの彼女のメンタルはボロボロに。母はダンススクールに顔を出した方と思えば「ヘンリックに合わせて」と懇願。何故今更会いたいのか?急に母親ぶる姿に苛立ち、今までの振る舞いを詰ったら「あなたを生んでやり直せると思ったけど失敗だった」と涙ながらに言われてしまう始末。母の言葉に傷つき、そして恐らく友人との出来事にもダメージを受けており、ダブルパンチで号泣するシャルロテ…。
 母に頼まれた通り、家にヘンリックを連れてくるシャルロッテ。ヘンリックのお子さんも一緒です。可愛い孫を囲んで和やかな家族の食卓に、シャルロッテも満たされた表情を見せます。本当の親子のように睦まじく過ごす三人、微笑ましい。しかしここで爆弾が投下。妹が何気なく聞いた「いつまでいるのか?」という問いに「いつまでも。妻と別れた」と唐突にぶっちゃける兄。お?!と兄妹厨が前のめりになる中、更にシャルロッテの心をかき乱す展開が続く。帰りに偶然会った恩師にマルテが妊娠したらしいことを告げられた妹はまたもショックを受ける。あの一件があって口を利いてもらえていないのか、また聞きになってしまう結果に…。疎外感に苛まれたシャルロッテは子供を寝かしつける兄の姿にもどこか寂しげな視線を投げ、キッチンで兄に後ろからイチャついてこられそうになるのも華麗にスルー。急に心変わり(したように見える)妹の様子を訝りながら、もうすっかり妹に嵌っている兄は最早迷いとか葛藤とか一切ない感じでめちゃくちゃ抱く。人の良さような嫁さんと別れたかと思えば事実婚しようやと言わんばかりの場の持っていきよう、思い切りが良すぎんか?とこれにはさすがの兄妹厨も苦笑い。
 一方、シャルロッテは荒れに荒れまくっており、妊娠したマルテの家を訪ねて「母親になるのは早くないか?」と聞いて怒らせてしまう。この質問はきっと、ずっと自分と一緒にいてくれると思っていた姉のような、あるいは母のような存在であるマルテが離れて行ってしまうことへの焦りからきたのではないかと思う。でもやっぱり、そんな感情は友人に抱くには重すぎる。マルテに「あなたを家族には迎え入れたけど、赤の他人よ」と言われてしまうシャルロッテ。それに対し「その言葉を待ってたの」と即座に返した瞬間、彼女の中で家族というものに対する線引きがはっきりしたように思う。赤の他人とは、つまりは血のつながっていない人間のことである。何よりも血縁者の愛情に飢え、渇望してきたシャルロッテにとって、血が繋がっていなくとも心から愛する人と結ばれた友人は憧れと羨望、そして嫉妬の対象だ。友人のようになりたくて、でも決してそうなはれない。赤の他人とはそこまで深くは分かち合えないという答えが、既に出てしまったのだ…。
 忘れたころに現れるボーイフレンドは兄妹のエッセンス。出張を終えたダグが二人を訪ね、何も知らないダグはシャルロッテとそこそこいちゃつく。仲良さげな彼らに不機嫌なヘンリック、洗面台でちょっとしつこく絡まれただけでブチ切れる。軽い小競り合いはだんだんとヒートアップしてついに喧嘩はガチモードに…兄に「大嫌い!イカレてる!」と暴言を吐き、直後に謝るもビンタされる妹、それを謝る兄に怒り散らかし、果ては首締めにまで発展する。大人のすることとは思えない本気の兄妹喧嘩は、荒々しく乱暴な寝技へとつながっていくのであった…。寝技とか言ったけど、ここでのシャルロッテの表情はとても切ない。兄に激しく求められながら、どこか空虚である。「イカレてる」発言に自分でも傷ついているのだと思う。当事者である彼女もまた、人に言われたくない言葉に違いないのだから…それでも「一緒にいたい」という本音が零れ、シーンは暗転する。他人に理解されなくても、どんなにイカレた関係でも、ただ一緒にいたいと願うのは、異性として愛しているだけでなく、ヘンリックが彼女の兄であることが大きな理由になっているのだと思う。
 そして思い出したように戻ってきたダグとのシーン。ベッド脇の彼女の携帯をのぞき見して嫌味を言ってきます。「私の中にきて」なんてメッセージを送った相手が兄だったら、そりゃ問い詰めたくもなるか…。ていうか二人がそんなメッセージのやり取りをしていたことにまず驚いた。なんかあまり携帯で連絡を取り合うような関係に見えなかったので…。プールデートとかでアホみたいに浮かれてたのでそのあたりでしょうかね。で、激怒したダグは携帯を取り返そうとしたシャルロッテの鼻づらを殴ってしまう。殴ったというか携帯が当たったというか、不可抗力な感じではあったけど、一切の謝罪なし。この時点で兄妹厨は「は?!この男最低やんけ別れて正解や!」といきなりキレていたが、兄妹喧嘩はノーカンなので仕方ない。泣きながら謝る彼女を置いて去って行く間男、さようなら間男。
 場面変わって、今度は大学の講堂らしき場所が映し出される。どうやらシャルロッテは大学に通い始めたらしい。電車で移動中、偶然にもベビーカーと一緒のマルテに遭遇。幸せそうな彼女と雑談を交わし、子供の名前は「ペドロ(あだ名はペール)」であると知る。調べたところ意味は「岩」とか「石」らしいけど、非常にメジャーな名前みたいなので特に意味はなさそう。普通に会話する二人だけど、食事をしようとかまた会おうとか改めて約束をすることなくお別れする。この微妙な距離感に覚えがありすぎて、彼女らは正しく他人に戻ったのだなぁとしみじみした。
 ここでまた新たな場所が登場。シャルロッテの帰宅先、大学に通うにあたって転居したと思われる家には母と見知らぬ男性(母の新恋人か?!)の姿があった。もしやこの三人で暮らすのかと思いきや、そうではない模様。ヘンリックと息子・オスカル(初めて名前出た気がする)が後から来ると聞いて、兄妹厨は歓喜に沸いた。母と男性は兄が来る前に発つと言い、そんな母に対してシャルロッテは笑顔で「愛してる」と伝える。すると母ははにかんで、視線を下に向け、唇を触り、仰ぐような仕草をする。何か躊躇うような間をおいて「私もよ」と答える。この何とも言えない反応、私ははじめ「娘の偽りのない言葉に感激したのか?」と思ったけど、妹(兄妹厨のリアル妹)の解釈は違いました。この意味深な間、母はおそらく兄妹のただならぬ何かを感じ取っているが故のものだと…。確かに、長く離れていた兄妹が一緒に住むっておかしくはあるよね。しかも兄は離婚したばかりだし。だけど家族の愛を築けなかった母には、もうこれ以上何も言えなかったんでしょうね。新しい恋人(?)がいるくらいだし、シャルロッテが離れていくことに焦りを感じていたようだし、寂しがり屋なんでしょうが、人の寂しさに寄り添うことのできない人種なんだろう…。
 ラストシーン、母が去り一人座って待ちぼうける妹の元に兄が現れる。笑顔で見つめあう兄妹は、優しい抱擁を交わして、物語はエンドロールへ。このシーンがとても良かった…。待ちぼうけてるシャルロッテは小さな子供のようで、誰からも置いていかれて孤独に見えた。そこへ迎えに来た兄。(正確には移ってきたんだけど、この表現がしっくりくる)幼い頃についた傷が癒されていくような、優しいやり取りだと思った。他人には後ろ指さされてこれからも苦労するだろうし、また喧嘩するかもしれないが、この二人は一緒にいなくてはならないと、兄妹厨の心に深く染み渡ったラストだった。 

 

 

 


 

 

 

 

きっかけ

私が「兄妹」と出会ったのは、高校1年生の時だった。

 

イナズマイレブンというゲームをご存知だろうか。そこの説明に文章を費やすのも面倒なので詳細は省くが、あらすじだけ言うと「サッカー少年が自校の弱小サッカー同好会を部活に発展させて全国一目指して邁進する」という感じである。王道ながら熱い展開と、素朴で耳に残るテーマソング、そして多種多様なキャラクターが魅力のゲームだ。

 

このゲームに登場するメインキャラクターの一人、鬼道有人(以下、鬼道さん)とその妹、音無春奈(以下、春奈)こそが私に人生で初めて「兄妹っていいな……」と思わせたご両人である。

鬼道さんは主人校(雷門中学)のライバル校の帝国学園に在籍する生徒だ。帝国サッカー部はフットボールフロンティアという大会で40年の無敗を誇る名門で、鬼道さんはそこのエースであり、キャプテンを務めている。

帝国は冷酷非道、試合で敗北した相手校を破壊するなど過激な面のある学校で、司令塔である鬼道さんも登場時はバリバリの悪役ムーブをかましていた。

ドレッドヘアにゴーグル、真っ赤なマントと極めて個性的な外見の鬼道さんは、厳しめの名前も相まっていかにもヒールだった。

そんな彼には、ある夢があった。「離れ離れになった妹、春奈と一緒に暮らすこと」だ。幼い頃に両親を飛行機事故で亡くした鬼道さんは妹の春奈と二人、児童養護施設で育ったが、昔からサッカーの才能に恵まれていた彼だけが鬼道家に引き取られた。鬼道さんは過去を断ち切るために養父から妹と連絡を取ることを禁じられていて(今考えたら厳しすぎやろと思う)、三年間フットボールフロンティアで優勝することを条件に妹を鬼道家に迎え入れると約束をしていたのだ。二人の名字が違うのは、別々の家に引き取られたためである。

なお妹の意思確認は一切行っておらず、養父母に可愛がられて育った春奈には案の定断られた。というかそもそも春奈は兄に捨てられたと思い込んでいたので、優しかった兄の変貌ぶりにはショックを受けており、当初関係の溝はかなり深かった。自分を引き取るために頑張っていたことを知ってからは和解したが、上記の通り音無の家を出るつもりは全くなく、鬼道さんもこの件は独りよがりだったと反省しているようだった。

天才ゲームメイカーと呼ばれるわりに猪突猛進で視野の狭かった鬼道さんだが、妹はといえば真逆の性格だった。ゆるくウェーブがかったショートボブに、額に乗せた赤縁メガネがトレードマークで、男子には結構モテる。情報収集が得意な雷門サッカー部マネージャーの春奈は、明るく活発な女子である。本当に血が繋がっているのか疑いたくなるが、正真正銘の兄妹だ。

話は変わるが、イナイレ界はキャラの多さと魅力的な関係性からカプが乱立する傾向にあるジャンルだった。あちこちでカップリングが模索され、この子もまたいい感じのサッカー少年が何人も彼氏候補に上がっていた。(オタクの頭の中で)

私はいわゆる男女カプ好きだったので、女子マネや女子選手受けを嬉々として日々漁っていた。しかしそれが春奈のこととなると話は別だった。春奈受けのカプ絵を見ると何かもやもやしたものを感じてしまい「かわいいけど、お兄ちゃんは大丈夫?」とよくわからない視点で心配してしまうのだ。春奈には鬼道さん…すなわち”お兄ちゃん”という存在がいるのに、と…。

そんな憤りを助長させたのが公式の燃料投下である。公式はぶっちゃけ、兄妹または兄弟に関する爆裂萌えエピソードの宝庫だった。中学生が主役なので家族にスポットが当たってもまあ不思議ではないのだが、そんな理屈はオタクの情熱を止める理由にはならない。妹が兄におにぎりを作れば「ハァ!!かわいい!!お兄ちゃんが好きなんだね!!」と膝を叩き、兄がさらわれた妹を救おうと奮闘すれば「魔界の民GJ!!なんかエロい衣装も最高!!お兄ちゃん頑張って!!」と興奮に息巻いた。そんな絶え間ない供給にオタクの心は追い立てられ、寝ても覚めても兄妹について考えさせられるまでに追い詰められてしまったのである。

この供給過多について、私なりの考察を述べたいと思う。兄妹の思いやりの描写は多分、恋愛よりもずっと扱いやすい。普通の男の子と女の子がいい雰囲気をかもしたらその後展開に影響するし何かと気を使うが、家族というわかりやすいグループ分けをされた兄妹は、その辺の配慮はほとんど必要ないからだ。兄が妹を心配し、妹が兄に尽くすという構図はなんら後ろめたくもなく、またその先に起こる展開にも変動は少ないため極めて平和だ。家族が家族以上になることはあり得ないし、それを邪な目で見る視聴者の方の存在などを想定して作品作りをしてはいないだろう。

そういうわけで(?)友情、青春、家族愛、全部が一緒くたになっていたイナイレという作品にあちこちの扉を開かれた結果、開けっ放しになってしまったのが兄妹好きの性癖であった。以来、イナイレに対する熱が鎮まってからも私は夜な夜な兄妹を求めて現世を彷徨う浮かばれない兄妹厨と化したのである。

 

ちなみに、姉弟も好きです。父娘と母息子はそれほどでもないけど場合よっては見ます。